▼定義
SAH後2~6週(あるいはそれ以降)に生じ,頭蓋内圧はほぼ正常だが,CSFが脳室内に過剰貯留し,脳室拡大と神経症状が緩徐に進行する疾患である.
▼病態
脳室系に閉塞がなく,くも膜下腔と正常に交通しているにもかかわらず生じ,交通性水頭症に属する.SAHによるくも膜表層細胞の増殖やくも膜下腔の線維化がCSFの吸収障害を起こし原因となる.
▼疫学
SAH患者の10~37%に生じるとされ,危険因子には高齢,脳室内出血,びまん性SAH,椎骨・脳底動脈瘤の破裂などがある.
▼診断
画像所見と臨床症状で診断する.
➊画像所見
CTやMRIで徐々に脳室が拡大し,Evans index(両側側脳室前角間最大幅/その部位における頭蓋内腔幅)>0.3になればNPHを疑う.NPHであれば,高位円蓋部脳溝やくも膜下腔の狭小化がみられる.
➋臨床症状
三徴(精神活動の鈍化,歩行障害,尿失禁)のうち,意識障害や精神症状が前景に立つことが多い.手術後の臥床期間中に発症する場合は歩行障害には気づかれない.
➌CSF排除試験(タップテスト:tap test)
SAH後慢性期に脳室の緩徐進行性拡大と神経症状の緩徐進行あるいは再増悪をみれば,本症の診断は容易である.遷延性意識障害に脳室拡大を伴う場合など,脳萎縮との鑑別が問題になる場合はCSFを30mL排除し,症状が改善すればNPHと診断する(タップテスト).
▼治療
脳室-腹腔シャント術あるいは腰椎-腹腔シャント術を行う.症状に応じて至適な圧設定を調節でき,CSFの過剰排除の予防,治療にも有利な圧可変式バルブを使用することが多い.
▼予後
SAH後の続発性NPHの場合,特発性NPH〔本章「特発性正常圧水頭症」の項(→)も参照〕に比べ,シャント手術により症状が劇的に改善することが多い.ただし,重症SAHに併発した場合,SAHに伴う脳損傷による後遺症は重篤である.