診療支援
治療

5 一過性脳虚血発作
transient ischemic attack(TIA)
西山 和利
(北里大学主任教授・脳神経内科学)

疾患を疑うポイント

●急性発症の片麻痺や半側身体の感覚障害,構音障害などを呈し,症状が短時間で消失した場合に疑う.

●心血管疾患の危険因子に関する背景がある高齢者に多い.

学びのポイント

●病態は1種類ではなく,血栓性や塞栓性,血行力学性などの病因があり,治療もおのおの異なるため,病態と病因をすみやかに解明することが重要.

●放置すると脳梗塞発症につながる神経救急病態であり,TIAに接した場合には可及的すみやかな対処と治療が必要.

●治療としては抗血小板薬や抗凝固薬などの抗血栓療法を適切に実施する.

▼定義

 急性脳梗塞を伴わない,脳や脊髄,網膜の局所虚血によって起きる神経学的機能障害の一時的な発作.

▼病態

 脳組織は虚血に対して脆弱であり,必要とされる量の血液供給が途絶えると,虚血に陥った脳組織が担っていた機能の脱落が生じる.TIAは脳虚血が一過性に生じた状態であり,多くは1時間以内に軽快する.

 従来,TIAは24時間以内に消失する神経症状と定義されてきた.すなわち症状持続時間のみによる診断であり,CTやMRIなど画像検査での病変の有無は問われなかった.しかし2002年にTIA Working Groupが,「急性梗塞を伴わない,脳や網膜の局所虚血によって起こる神経学的障害の一時的発作で,通常は1時間以内の持続時間」とする定義を提唱し,さらに2009年に米国心臓学会/米国脳卒中学会が「急性梗塞を伴わない,脳や脊髄,網膜の局所虚血によって起こる神経学的機能障害の一時的発作」と定義したため,今では具体的な症状持続時間の区切りはなくなりつつある.

 症状は虚血に陥った脳の部位によって異なる.脳へ向かう血管は内頸動脈系と椎骨脳底動脈系の2つに大別されるが,これらの症状の出現の比率はおおむね内頸動脈系:椎骨脳底動脈系=4:1である.内頸動脈は原則として前頭葉・側頭葉・頭頂葉の3領域を支配しており,内頸

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