▼病態
深部静脈血栓症(DVT)は,急性期脳卒中の数%から40%に合併するとされ,脳卒中で麻痺を有する場合は高リスクとみなされる〔第3章の→も参照〕.発生率の差には,検査の時期や方法,脳卒中の病型などの影響が推測される.下腿静脈系,特にヒラメ筋静脈に多く,重度の下肢麻痺を呈する患者が,安静期を過ぎて離床を開始する時期に肺塞栓症を併発するため,積極的に予防,治療をする必要がある.
片側の下肢に浮腫,腫脹(径3cm以上の左右差)があり,紅斑がなければDVTの可能性が高くなる.Wells(ウェルズ)スコアなどを用いた臨床的可能性評価が低~中確率の場合には,Dダイマーを測定する.検査前確率が低く,Dダイマーが陰性ならDVTはほぼ否定的である.検査前確率が高い場合や,Dダイマーが高値のときは下肢静脈エコーを行う.危険性の低い下腿型DVTでも中枢側への進展の有無をみるために,5~7日以内に再検査する.
▼治療・予防
「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」では,中枢型DVTの場合は,初期および維持治療期に非経口抗凝固薬あるいはⅩa阻害薬の投与が推奨されるが,末梢型の場合は画一的な抗凝固療法は施行しないこととされる.
一次予防では,早期離床と積極的な運動が基本であり,ヒラメ筋静脈の血流うっ滞改善のために筋ポンプを働かせることが重要である.歩行困難な場合には,ベッド上での足関節の背底屈運動を指示する.自動運動ができなければ,他動運動や足首から膝にかけてのマッサージをできるかぎり早期から行うことが望ましい.弾性ストッキングは,安価で容易に実施できるために,これまで汎用されてきた.しかし,大規模ランダム化試験の結果では,DVTの発症を低下させず,その一方で皮膚潰瘍などの合併症の頻度が高かったことから推奨されない.このため,現在では間欠的空気圧