診療支援
治療

1 脊髄の血管系
vascular system of the spinal cord
寳子丸 稔
(交野病院・院長)

 脊髄を栄養する動脈は椎間孔あるいは大後頭孔を通って脊柱管内に入る.頸椎では椎骨動脈あるいは鎖骨下動脈から分枝した動脈が,胸椎では肋間動脈から分枝した動脈が,腰椎では腰動脈あるいは内腸骨動脈から分枝した動脈が脊柱管内に入り脊髄を栄養する.脊柱管内で硬膜を貫通し,神経根にそって走行するものを根動脈とよぶ.数ある根動脈のなかの一部の動脈が脊髄表面に到達して枝分かれしたのちにほかの根動脈の枝と吻合して3本の脊髄動脈を形成する.1本は脊髄前面の正中を脊髄全長にわたって縦走する前脊髄動脈であり,残りの2本は脊髄後面の左右外側部をそれぞれ縦走する後脊髄動脈である.前脊髄動脈は,全脊髄で平均6本の根動脈が吻合して形成されるが,そのなかで特に太いものにAdamkiewicz(アダムキーヴィッツ)動脈があり,T9からL3レベルまでの左側の根動脈から出現することが多く,下部胸髄から腰仙髄までの血液供給を行う.前脊髄動脈は脊髄の前方2/3の領域に血液を供給しており,その灌流域には灰白質の前角,白質の前索および側索腹側部が含まれる.前索には前皮質脊髄路や前脊髄視床路などが存在している.側索に存在する外側脊髄視床路は完全に前脊髄動脈からの灌流域に入るが,同じく側索に存在する外側皮質脊髄路は前脊髄動脈から血液供給を受けないこともあり,個人差が大きい.後脊髄動脈は前脊髄動脈より細いが,前脊髄動脈よりも多くの根動脈により形成され側副血行路が豊富なため虚血には比較的強い.脊髄の後方1/3の領域に血液を供給し,その灌流域には後角と後索ならびに側索背側部が含まれる(図10-29)

 静脈系は動脈と同様に脊髄後面には最大3本の静脈が縦走し,前面正中に1本の静脈が縦走しているが,縦走する静脈の間には脊髄を取り囲むように多数の側副血行路が形成されている.また,脊髄の静脈系には弁がなく圧勾配により縦横無尽にその流路を

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