診療支援
治療

2 脊髄梗塞
spinal cord infarction
寳子丸 稔
(交野病院・院長)

疾患を疑うポイント

●大動脈病変,胸腹部手術の既往がある.

●急速に発現する両側性の運動麻痺,解離性感覚障害,膀胱直腸障害があれば,脳梗塞でなく脊髄梗塞を疑う.

学びのポイント

●ほとんどは前脊髄動脈灌流域の梗塞.

●前脊髄動脈の灌流域には脊髄視床路が含まれ,後索が含まれていないために,温痛覚は障害されるが,後索の機能は温存され,解離性感覚障害が発生する.

●MRIが唯一の診断手段であるが,発症急性期にT2強調画像ならびに拡散強調画像にて髄内に高信号域を示すことが特徴.

●脳梗塞より予後が良好.

▼病態

 脊髄梗塞は非常にまれで,脳卒中の1%程度の頻度である.脊髄梗塞は大動脈解離,大動脈瘤の破裂,胸腹部手術,心肺停止に伴う二次的な脊髄の虚血などにより発生することが知られているが,脊髄梗塞の80~90%は明らかな原因なしに発生する.脳卒中と同様に高血圧と糖尿病が主要な危険因子と考えられているが,特殊な危険因子として椎間板ヘルニアなどの脊椎疾患の合併が挙げられている.これには,椎間板が直接脊髄固有血管や根動脈を圧迫して脊髄梗塞に至る機序が考えられている.脊髄梗塞は血流が乏しいと考えられている胸髄に好発するが,頸髄や腰仙髄にも発生する.

 症状は急速に発生するが,神経脱落症状が出現する前に梗塞部位の支配領域におおむね一致して痛みを感じることが多い.神経脱落症状は梗塞の部位に応じて,前脊髄動脈症候群,後脊髄動脈症候群,横断性脊髄症などの病型をとることが知られているが,前脊髄動脈症候群を呈することが圧倒的に多い.前脊髄動脈症候群では,対麻痺または四肢麻痺の両側性運動麻痺を急速に発現する.脳梗塞の多くが片側性運動麻痺を発生することと対照的である.病初期は弛緩性麻痺をとることが多いが,慢性期になると痙性麻痺に移行することが多い.感覚障害としては,脊髄視床路が障害され温痛覚が低下するのに対し後索が温存されるた

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