診療支援
治療

(2)日本脳炎
Japanese encephalitis
郡山 達男
(脳神経センター大田記念病院・病院長)

▼定義

 蚊によって媒介される日本脳炎ウイルスの感染により引き起こされる.感染してもほとんどの場合は不顕性であるが,発症すると致死率は約30%で,回復しても半数近くの患者が後遺症を残す〔第11章の参照〕.

▼疫学

 発生地域は東アジアから東南アジアに及ぶ.日本国内においては近年ほぼ10例/年以下で推移している.患者発生地域は九州・沖縄を中心に西日本に多く,特にウイルスの主な増殖動物である養豚が盛んな地域で患者の発生がみられる.患者発生時期は蚊の活動時期とほぼ一致し8~10月に多い.コガタアカイエカなどイエカにより媒介され,ブタなどのウイルス増殖動物とともに感染環を形成する.ヒトやウマは終宿主にあたる.

▼症状・診断

 潜伏期は6~16日.高熱,頭痛,悪心,嘔吐,めまいなどがみられる.その後,項部硬直,意識障害,脳神経麻痺,不随意運動,不全麻痺などの神経症状を示す.

 血液検査では病初期には好中球優位の白血球数の増加がみられる.髄液検査では単核球を主体とした細胞数や蛋白量に軽度の上昇がみられることがある.頭部CT・MRIで視床,基底核に高頻度に異常所見がみられる.急性期には髄液からRT-PCR法などを用いてウイルス遺伝子RNAの検出およびウイルス分離,急性期と回復期の血清中で日本脳炎特異IgM抗体のHI法で4倍以上の有意な増加を確認する.

▼治療

 脳炎を発症した場合に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる.高熱,けいれん,および脳圧の管理が重要である.脳炎を発症した場合の致死率は30%前後と高く,回復しても30~50%の患者で知能障害や運動障害などの重度後遺症がみられる.これらの割合は特に小児や高齢者で高くなる傾向がある.

トピックス

【日本脳炎のワクチンと予防】

 不活化日本脳炎ワクチンの導入は1954~1955年に始まった.マウス脳由来不活化ワクチンはマウス脳由来成分が急性散在性脳脊髄

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