診療支援
治療

(5)ライ症候群
Reye syndrome
郡山 達男
(脳神経センター大田記念病院・病院長)

▼定義

 脳症の臨床所見である急性発症の意識障害と内臓,特に肝臓の病理所見である脂肪変性を中核として形成された臨床病理学的概念である.本症候群はインフルエンザ,水痘などのウイルス感染症に続発し,時にアスピリン,バルプロ酸などの薬物,アナフィラトキシンなどの毒物により誘発される.

▼病態

 病態の中心は,肝ミトコンドリア代謝の一過性障害である.なかでも脂肪酸代謝異常が重要で,これに基づく二次的異常が糖新生,尿素サイクル,ケトン体産生,クエン酸サイクルなどさまざまな代謝経路に派生する.

▼疫学

 米国で1970年代に本症候群が多発し,症例数は年間数百例に及んだ.しかし,その後アスピリン使用頻度の減少とともに激減した.わが国ではもともと罹患率が低く,年に十数例程度であったが,近年さらに減少している.

▼症状

 典型例は5歳以上の年長児で,ウイルス感染症の発熱がいったん解熱したのち,嘔吐や意識障害などで発症する.初発症状は悪心・嘔吐や易刺激性が多く,意識障害は傾眠から昏睡へ進行し,けいれんをしばしば伴う.肝腫大や黄疸は通常,みられない.

▼診断

 米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention)の診断基準がよく用いられる.①急性脳症で意識障害を呈し,脳脊髄液で細胞数8/μm以下と増多がない,または脳組織検査で脳浮腫があるが,炎症がない.②肝組織検査で微細脂肪沈着がみられる,または血清AST,ALTないし血中アンモニアの正常値の3倍以上の上昇.③脳障害や肝障害を説明できるほかの成因がない.

 高アンモニア血症や低血糖を伴う例では,脂肪酸,有機酸,尿素サイクルなどの先天代謝異常症を鑑別する必要がある.

▼治療

 原則的には集中治療を行い,輸液路を確保し,重症例は気管挿管し,人工換気を行う.けいれんを抑制するために,抗てんかん薬を静注する.ただし,バルプロ酸やア

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