疾患を疑うポイント
●細胞性免疫の低下を有するものに亜急性進行性の多彩な神経障害がみられる.
学びのポイント
●PMLの原因ウイルスであるJCVは,多くの人が不顕性感染している.
●感染成立後,潜伏感染した状態に細胞性免疫の低下が加わることが発症の要因となる.
●まれな疾患であるが,近年,HIV感染症を基礎疾患としたHIV-PML,免疫抑制薬および抗体医薬による薬剤関連PMLが一定の割合を占めるようになっている点で重要である.
▼定義
ポリオーマウイルス科ポリオーマウイルス属の環状2本鎖DNAウイルスであるJCウイルス(JC virus:JCV)による亜急性中枢神経感染症である.認知機能障害・構音障害・片麻痺などの多彩な神経症状を呈し,亜急性進行性の経過をたどり,大多数が致死的転帰をとる.
▼病態
JCVが経口,経気道的に体内に侵入し,初感染が成立する.その後,扁桃,腎臓,骨髄で潜伏感染すると考えられている.JCVは遺伝子構造により,原型とPML型に分類される.原型JCVは健常者の体内にも潜伏しうる.一方PML患者の脳にみられるのはPML型JCVである.このことからPMLの発症には,遺伝子変異によるJCV側の要因と,免疫機構の低下という宿主側の要因が関与していると考えられる.PML型JCVがどの部位で再活性化するかは不明だが,最終的に脳のオリゴデンドロサイトで増殖し,中枢神経に多発性脱髄病変を引き起こす(図10-42図).大脳白質病変が主体だが,小脳や脳幹にも生じ,多彩な神経症状を呈する.
▼疫学
わが国の発症頻度は人口1,000万人に対して約1人である.基礎疾患は,欧米では多くをHIV感染症が占めるが,わが国ではHIV感染症,血液系悪性腫瘍,膠原病などが含まれており,多彩である.
▼分類
HIV感染症を基礎疾患としたHIV-PMLと非HIV-PML(免疫抑制薬および抗体医薬による薬剤関連P