診療支援
治療

5 書痙
writer's cramp
目崎 高広
(榊原白鳳病院・診療顧問)

疾患を疑うポイント

●字を書きにくい(ほかの動作はできる)という主訴で来院することが多い.

学びのポイント

●書痙は局所性ジストニアの一型であり,上肢ジストニアに含まれる.多くの場合,発症時には書字動作のみが困難である.のちにはしばしばほかの動作も困難となる.

●ほかの精密な反復動作でも同様の症状をきたすことがある.音楽家のジストニアに代表される.

▼定義

 脳の運動調節障害として,書字の際に使用する筋の収縮と弛緩とが本来のバランスを失い,書字動作が困難になる疾患である.

▼病態

 多くの場合,書字動作に使用しない筋の不随意収縮が書字動作を妨げる.このため書字の際に,不随意に手指が屈曲する(伸展する)・手首が屈曲する(伸展する)などの異常姿勢を呈する.姿勢は患者によって異なるが,個々の患者では固有である(定型性).書字以外の精密動作を反復することでも同様のジストニアを呈する場合があり,音楽家のジストニア(musician's dystonia)はその典型である.

▼疫学

 正確な有病率は不明.過去の統計では人口10万人あたり1人未満から20人以上までさまざまである.診断精度の問題のほか,書字振戦を含めるか否か,書痙のみとするか上肢ジストニア全体を含めるか,などによって数字は変動する.特定集団では高頻度の発症があると思われ,例えば音楽家では1%以上が演奏に関連するジストニアを有すると推測されている.若年成人に発症のピークがあり,男性に多い.

▼分類

 多くの場合,初期には書字動作のみが侵されるが(動作特異性),初期からほかの動作時にも同様の異常姿勢をきたす場合がある(後者の場合には書痙とせず上肢ジストニアと呼称する).また前者の場合も,しばしば経過とともにほかの動作も侵され,安静時にもジストニアの症状を呈するに至ることがある.

▼診断

 書字の際に,動作に不要な筋の不随意収縮を認め,異常な書字姿勢を呈す

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