診療支援
治療

7 悪性高熱症
malignant hyperthermia(MH)
青木 正志
(東北大学大学院教授・神経内科学)

疾患を疑うポイント

●麻酔中から手術後早期にかけて発症し,原因不明の呼気終末二酸化炭素分圧(PECO2)の増加,頻脈,筋強直(開口障害を含む)などに続いて急速な体温の上昇,チアノーゼ,動脈血CO2分圧増加を認める.

学びのポイント

●まれにしか遭遇しない疾患であるが,発症してからの進行がきわめて速いため,迅速で適切な対応が求められる.発症後に15~30分以内にダントロレン投与などの治療が開始できるかがその生命予後に影響するといわれている.

●常染色体優性遺伝形式をとり,1型リアノジン受容体遺伝子(RYR1遺伝子)の点突然変異によるものが有名.

RYR1遺伝子はセントラルコア病などの先天性ミオパチーの原因遺伝子でもある.したがって先天性ミオパチー患者の麻酔に関しては注意が必要.

▼定義

 揮発性吸入麻酔薬あるいは脱分極性筋弛緩薬(スキサメトニウム)の投与によって誘発され,全身麻酔中あるいはその後に起こる緊急事態である.筋代謝の異常亢進により,筋強直,代謝亢進による動脈血CO2分圧増加,乳酸アシドーシス,頻脈,異常な高熱をきたす.

▼病態

 骨格筋の筋小胞体にあるRYR1遺伝子の点突然変異により,麻酔薬が異常RYR1に作用して,これによるRYR1チャネルの異常開放を引き起こす.これによる細胞内カルシウム濃度の異常上昇が筋収縮の持続をきたすと考えられている.常染色体優性遺伝形式をとるが,単一疾患ではない.RYR1遺伝子に変異がみつかるのは悪性高熱症素因者の約50%といわれている.

▼疫学

 全身麻酔例の10万人に1~2人の頻度で発症する.1969年から現在まで,わが国で劇症型の発症総数は400例を超え,男女比はほぼ3:1で男性に多い.本疾患は遺伝性疾患であることより,潜在的な保因者は相当数あると推定される.

▼分類

 劇症型と不全型に分類される.また,手術中に発症するだけではなく,麻酔後に発症する術後

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