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治療

5 毛細血管拡張性運動失調症(ルイ・バー症候群)
ataxia telangiectasia(AT),Louis-Bar syndrome
伊藤 康
(東京女子医科大学派遣准教授・小児科)

▼定義

 主に小脳変性症,毛細血管拡張症,液性・細胞性免疫不全症,高頻度の悪性腫瘍発生と放射線高感受性によって特徴づけられる常染色体劣性遺伝疾患〔第13章のも参照〕.小脳症状は必発で,坐位や歩行を開始する乳幼児期に明らかになり徐々に進行する.免疫グロブリンおよび抗体欠損症,リンパ球減少症などの免疫学的異常を呈する.悪性腫瘍(特にリンパ球系由来)も高頻度に発生する.慢性肺疾患や,摂食・嚥下や栄養の問題も随伴する.その他,糖尿病,成長障害,性腺機能障害など内分泌異常,皮膚・頭髪・血管の早老性変化,低緊張性顔貌を認める.認知面は通常正常であるが,学習障害はよくある.

▼病態

‍ ATM遺伝子(11q22.3)の変異により発症する.DNA二重鎖切断,酸化ストレスなどのDNA損傷に応答し,DNA修復応答機構を活性化させることがATM蛋白の主な役割であり,ATではDNA修復機能が働かない.小脳変性の病因に関しては,Purkinje(プルキンエ)細胞の異常が認められるものの,ATMの役割など未解明である.

▼疫学

 世界的な有病率は4万~10万人出生に1人と推定されている.男女差はない.

▼診断

 神経症状(運動失調,構音・嚥下障害,眼振,眼球運動失行,舞踏アテトーゼ)と,眼球結膜・皮膚の毛細血管拡張,易感染性,特異的な検査異常(血清IgA,IgE,IgG2,IgG4の低下,AFP上昇,CEA上昇,T細胞減少)の1つ以上との組み合わせで疑う.確定診断には,免疫ブロット法による細胞内ATM蛋白発現の低下とATM遺伝子変異を同定する.X線など放射線を用いる画像検査は行わない.経時的MRI検査では進行性小脳萎縮を認める.

▼治療・予後

 神経症状に対しては対症療法にとどまるが,運動失調改善目的に少量ベタメタゾン療法による臨床試験が開始されている.抗酸化薬(ビタミンEやα-リポ酸)などによる治療法も研究段階にあ

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