疾患を疑うポイント
●汚染された水から感染するため,食品を問わず食中毒の原因となる.
学びのポイント
●大腸菌(Escherichia coli:E. coli)のなかで下痢を起こすものを,「病原大腸菌」(pathogenic E. coli)と総称する.
●感染型食中毒の起炎菌.
●腸管出血性大腸菌感染症では致死的なことがあり,社会的な影響が大きい.
●腸管出血性大腸菌感染症ではヒト-ヒト感染することがある.
▼分類
5種類に分類される.おのおの疫学,病原機序が異なる.
➊腸管病原性大腸菌(enteropathogenic E. coli:EPEC)
EPECは2歳以下,特に6か月以下の幼児に多く,発展途上国においては乳幼児下痢症の主たる起炎菌であり,わが国においても乳幼児下痢症患者から散発的に分離される.EPEC adherence factor(EAF)というプラスミドをもち,限局型接着が特徴である.小腸粘膜細胞に接着し,小腸微絨毛を破壊する.潜伏期は12~24時間で,成人では2~3日で回復に向かうが,乳幼児では1週間以上を要する.
➋腸管組織侵入性大腸菌(enteroinvasive E. coli:EIEC)
EIECは散発的な発生で,乳幼児の罹患はまれである.赤痢菌同様の病原性プラスミドをもち,大腸の粘膜上皮細胞に侵入し,増殖しながら周囲の細胞に広がり,基底膜を剝がし,大腸や直腸に潰瘍性炎症を起こす.しぶり腹の後,血液や粘液,膿混じりの下痢になる.発熱,悪寒,悪心,嘔吐,頭痛のほかけいれんを伴うこともある.潜伏期は3~5日だが,症状の多くは2~3日で回復する.
➌腸管毒素原性大腸菌(enterotoxigenic E. coli:ETEC)
ETECは発展途上国においては乳幼児下痢症による死亡の最も重要な原因菌である.わが国では海外渡航下痢症の原因であるが,一方では大規模な食中毒を