▼病原菌
グラム陽性の通性嫌気性有芽胞桿菌であるBacillus anthracisに起因する動物由来感染症であり,国内では四類感染症に区分されている.本菌は土壌中では芽胞形態をとって長期間休眠状態で生存するが,時に地表近くの泥中で発芽して栄養型に変化する.この菌が家畜などの体内に取り込まれることにより家畜など動物の炭疽が成立する.ヒトの炭疽菌感受性は比較的低いため,動物に媒介されない限り土壌からヒトへの直接感染は成立しない.
▼疫学
炭疽菌は世界中に分布するが,スペイン,ギリシャ,トルコ~パキスタン間が炭疽ベルトとよばれる好発地帯であり,年間数百例のヒトの患者が発生している.ヒトの発症例は発展途上国における畜産従事者などが多数を占めている.国内では1965年に岩手県で起こった集団発症において20名の患者が発症したが全例が救命できている.近年は患者数が激減して1994年が最後の報告年度となっている.また家畜自体の炭疽も同様に報告が減少しており,2000年に宮崎でウシ1頭の発症が報告されたのが最後となっている.
▼病態
ヒトの炭疽は皮膚炭疽,腸炭疽および肺炭疽に区分される.発症例の多くは予後良好な皮膚炭疽であって肺炭疽はきわめてまれである.ただしバイオテロでは肺に吸入しやすく加工された芽胞が散布されるため,致命率が高い肺炭疽症例が多発する危険性が高い.皮膚炭疽は菌が皮膚の創部から侵入することにより発症するため顔面や前腕,手などの皮膚露出部位に好発する.小発疹からはじまって無痛性の水疱形成,続いて黒色痂皮を伴う潰瘍に移行するが通常は2週間弱の経過で治癒に至る.腸炭疽は汚染された食品や水などの摂取後に発症し腸管型と咽頭型とに区分される.肺炭疽は芽胞菌の経気道吸入により発症する.潜伏期間は通常1~7日だが2か月近く経過してから発症する可能性も報告されている.肺炭疽ではインフルエンザ様症