▼病原菌
通性嫌気性の無芽胞グラム陽性桿菌であるListeria monocytogenes(図11-19図)に起因する動物由来感染症である.リステリア属のなかでは本菌種のみがヒトに病原性を呈する.
▼疫学
本菌は世界中に分布しており多くの鳥類や哺乳類の腸管内に常在している.また土壌や河川,下水など環境中にも広く分布している.健常成人の腸管保菌率は1%程度とされている.
ヒトへの主要な感染契機は汚染された食品の経口摂取であり,集団感染も国内外でしばしば報告されている.鶏肉,牛肉,豚肉,ミルク,チーズ,生野菜や果物など多彩な食品が潜在的な感染源となりうる.また本菌は一般的な冷蔵庫内の温度である4℃の低温環境でも増殖が可能である点にも十分な注意が必要である.潜伏期間は平均すると3週間程度と推定されているが,宿主の状態や菌量により1日以内から1か月以上までバラつきが大きく,原因食品の特定が難しい場合も少なくない.なお本症は明らかな食中毒が疑われた場合には24時間以内に保健所への届出が必要となる.
▼病像
健常成人が感染した場合は多くは不顕性感染に留まり,発症したとしても重症化はせずに発熱を伴う軽度の胃腸炎やインフルエンザ様症状にとどまる場合が多い.一方では本菌は髄膜への親和性が非常に高く,高齢者や免疫不全宿主においては菌血症を介して重症の髄膜脳炎まで進展する場合が少なくない.また本菌は胎盤への親和性も高く,妊婦が感染すると流産や死産の原因となりうる.出生後の新生児も経胎盤感染による菌血症や産道感染による髄膜炎を発症しやすく,十分な注意が必要である.
▼診断
本症の診断に際しては,適切なタイミングで血液培養あるいは髄液培養を施行して,無菌的検体から本菌を分離することがきわめて重要である.
▼治療
第一選択薬はアンピシリンまたはペニシリンGであり,髄膜炎例では十分量の投与が必要となる.アミノ
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