疾患を疑うポイント
●性行為感染症を疑う症状や感染リスクがある場合には,本病原体を必ず想起する.
●女性の場合には無症候のことも多いので,必要に応じて培養検査を行う.
▼定義
淋菌(Neisseria gonorrhoeae)に感染することで引き起こされる感染症.
▼病態
主に性行為で伝搬するため泌尿器や生殖器への感染が主だが,播種性淋菌感染症のような全身症状をきたすこともある.淋菌はグラム陰性双球菌であり,形態は同じナイセリア属である髄膜炎菌(N. meningitidis)と似ている.
▼疫学
主に性行為で感染し,全世界で認められている.わが国でも感染症法での五類感染症として定点施設から報告され,流行は継続している.
▼分類
➊女性に関する泌尿生殖器感染症
1)頸管炎
無症状で痛みもないことが多いが,膿性の帯下や子宮頸部に分泌物を示すこともある.
2)尿道炎
頸管炎と合併し,こちらも無症状であることが多い.時に排尿時痛を示すこともある.
3)骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)
淋菌はPIDの主な原因菌の1つである.頸管炎から進展して起こり,炎症が子宮,卵管,卵巣に拡大して腹痛,性器出血とともに発熱を起こす.
診察では腹部の圧痛や子宮頸部を動かすと骨盤内に痛みが発生するmotion tendernessを認める.炎症が肝表面のグリソン鞘に及ぶとFitz Hugh-Curtis(フィッツ・ヒュー-カーティス)症候群とよばれる肝周囲炎を起こし,右上腹部に限局した強い痛みを生じるようになる.
4)出産・妊娠への影響や疾患
淋菌感染症が治療されないと不妊症の原因となる.また感染した状態で妊娠・出産を迎えると,絨毛膜羊膜炎や胎盤早期剝離,流産の原因にもなる.さらに出生児に感染を起こすと新生児淋菌性結膜炎や菌血症を引き起こしうる.
➋男性に関する泌尿生殖器感染