疾患を疑うポイント
●若年者の肺炎で,膿性痰を欠如,咳嗽が強い,白血球数が正常などの非定型肺炎の病像に合致する.
●β-ラクタム系抗菌薬が無効で,マクロライド系,テトラサイクリン系,ニューキノロン系の抗菌薬が有効である.
●家族や周囲に同様の症状を呈する者がいる.
学びのポイント
●若年者の市中肺炎で,最も頻度の高い肺炎である.
●しばしば,集団内流行を起こす肺炎である.
●肺外症状を合併することがある.
●マクロライド耐性肺炎マイコプラズマによる感染症がみられる.
▼定義
肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)による,肺実質の炎症.
▼病態
肺炎マイコプラズマは,自己増殖が可能な最も小さい微生物であり,生物学的には細菌に分類される.感染様式は,感染患者からの飛沫感染および接触感染によるが,しばしば学校内あるいは家庭内での集団感染が起こる.
経気道的に侵入した肺炎マイコプラズマは,気道上皮の線毛に付着し,過酸化水素や活性酸素により気道上皮細胞,線毛細胞を傷害する.この直接的な気道上皮の傷害と別に,菌体表面にあるリポ蛋白がマクロファージにより認識されると,IL-18やIL-8のようなサイトカインが産生され,好中球の活性化,遊走が促される.この直接反応および免疫反応により,線毛細胞の脱落が起こり,粘膜下の求心性神経C線維が刺激され,強い咳嗽を生じると考えられている.
▼疫学
肺炎マイコプラズマは,非定型肺炎(後述)の代表的な原因微生物であり,原因の判明した市中肺炎の5~20%に認められると報告されている.罹患者は,幼児,小児および若年成人が中心であるが,高齢者にも認められる.
発生は通年性にみられるが,わが国での感染症発生動向調査からは,晩秋から早春にかけて報告数が多くなる.かつて,わが国ではマイコプラズマ肺炎は4年ごとの周期で流行を繰り返していた.近年この傾向は崩れつつあ