トリパノソーマ科トリパノソーマ属が原因となる原虫症.いずれも媒介昆虫により感染する組織寄生原虫だが,母子感染,輸血を含む移植によっても感染しうる.トリパノソーマの検出には,血液(バフィコート)や骨髄穿刺液の塗抹標本,あるいは肝・脾・リンパ節生検組織のギムザ染色による顕微鏡検査が用いられ,特徴的な形態の錘鞭毛型や組織内の無鞭毛型の虫体が検出される.
➊アフリカトリパノソーマ症(African trypanosomiasis)
別名アフリカ睡眠病(African sleeping sickness).Trypanosoma bruceiの地域亜種であるT. b. gambiense(アフリカ中央部から西部のコンゴ地域に分布)とT. b. rhodesiense(アフリカ南東部に分布)が原因原虫.新規発生数が2,800件(2015年)まで減少し撲滅が期待される.感染型はツェツェバエの刺咬によりヒトに侵入.
初期症状は,発熱,リンパ節腫脹〔後頸部リンパ節腫脹のWinterbottom(ウィンターボトム)徴候が有名〕などだが,原虫が血液脳関門を突破し中枢神経系に侵入すると,性格変化,興奮,錯乱などの精神症状,さらに意識低下,昏睡に至る.症状は,主にヒト寄生により生活環を維持するT. b. gambiense感染では比較的ゆっくりと進行し,一方,主に家畜や狩猟動物に寄生するT. b. rhodesienseでは症状が激烈.
治療にはeflornithineやsuraminが用いられるが,いったん中枢神経系に虫体が侵入するとmelarsoprol以外は無効.だがmelarsoprolの標準治療は約5%が死亡する副作用を伴うため,早期診断が重要となる.
➋シャーガス病(Chagas disease)
中南米に分布するT. cruziによる原虫症であり,慢性感染などで常時600万~700万人が