学びのポイント
●世界の広い地域に分布する致死率がきわめて高い中枢神経感染症.
●海外でコウモリやイヌなどに咬まれた場合にはリスクに応じた狂犬病曝露後予防処置を行う.
▼定義
狂犬病ウイルス(ラブドウイルス科リッサウイルス属)を病原体とする中枢神経感染症〔第10章の→も参照〕.
▼病態
病原体の宿主は主にコウモリやイヌ科の動物.動物に咬まれる際に病原体を含んだ唾液で受傷部が汚染され感染する.神経細胞に侵入した病原体は中枢神経に運ばれる.中枢神経でウイルスは活発に増殖し,病理学的にNegri(ネグリ)小体を形成する.その後,遠心性に筋肉,皮膚,副腎,唾液腺などに分布するようになる.大脳の病理学的変化は軽度であるが,脳幹や脊髄は広範に障害される.
潜伏期は通常20~90日だが,1年以上という報告もある.
▼疫学
日本,オーストラリア周辺の大洋州,西欧,南極などを除き,世界中に広く分布している.推定で年間55,000人の患者が発展途上国を中心に発生している.日本は狂犬病予防法のもとに犬の登録,予防接種などが行われている.1957年以降,日本国内で動物の狂犬病は発生していない.患者は1970年に1名(ネパールで感染),2006年に2名(いずれもフィリピンで感染)が輸入症例として報告されている.
▼分類
脳炎(狂躁)型と麻痺型に分類され,前者が典型である.発熱,倦怠感,頭痛などの前駆症状ののちに,咬創部の感覚異常(瘙痒感,疼痛)が出現する.ついで,水を飲もうとする際に咽頭の筋肉が強直する恐水発作が出現する.病状が進行すると,風に当たるだけでも同様の症状が誘発される.幻覚や過換気,頻拍性不整脈,多汗,垂涎,けいれんも観察される.一方,麻痺型はこれらの症状に乏しく,上行性の麻痺から昏睡に至るものである.
▼診断
常在地でコウモリやイヌなどに咬まれる曝露歴があり,1~3か月後に受傷部の感覚異常,恐水発