▼定義
コロナウイルス科ベータコロナウイルス属のMERSコロナウイルス(MERS-CoV)による感染症で,感染したヒトコブラクダ,ヒトとの接触や体液曝露により感染する.自然宿主としては,コウモリが知られている.
▼病態
MERSの潜伏期は,2~14日である.臨床像は,無症状から,軽症の感冒様症状(微熱,頭痛,咽頭痛),重症例(高熱,呼吸困難)までさまざまである.韓国でのアウトブレイクでは,呼吸器症状を呈したのは40%程度にとどまっていた.消化器症状(嘔気・嘔吐,下痢,食欲不振)や腎不全の症状を呈することもある.
血液検査では,白血球減少,特にリンパ球減少がみられる.血小板減少などがみられる場合もある.胸部X線では,ウイルス性肺炎,急性呼吸不全に相当する像(肺門部浸潤影,斑状陰影,すりガラス様陰影など)を示す.上葉よりも下葉に多く,SARSよりも進展が早い.
▼疫学
2012年にサウジアラビアをはじめとした中東地域で発生した新興ウイルス感染症である.2015年韓国では,1例の輸入感染をきっかけに院内感染が発生し,社会的に大きく混乱した.米国,西欧,北アフリカ,アジアの各国においても輸入感染が確認されているが,日本国内ではまだ報告がない.感染のリスクは,流行地域でのラクダの騎乗,ラクダ生乳の飲用,患者との接触(医療機関への受診)が知られている.
▼分類
感染症法において,MERSは二類感染症に,MERS-CoVは三種病原体等に規定されている.なお,検疫法においては,病原体の有無の検査を行う疾患として政令に規定された検疫感染症に位置づけられている.
▼診断
鼻腔吸引液,鼻腔ぬぐい液,咽頭ぬぐい液,喀痰,気道吸引液,肺胞洗浄液,剖検材料からウイルスを分離するかPCR法による遺伝子の検出を行う.いずれも保健所や地方衛生研究所を通じての行政検査を依頼する.
▼治療・予後
有効な抗ウイルス薬などの