▼概説
ここでは向精神薬のなかでも毒性の高い,三環系抗うつ薬,リチウム,バルビツール酸類の中毒について述べる.
▼毒性のメカニズム
➊三環系抗うつ薬
Na+チャネル阻害作用により,心筋細胞における脱分極相を遅延させることで,心毒性を生じる.またヒスタミン受容体拮抗作用は,意識障害を引き起こす.ほかにけいれんの発症には,GABA受容体Cl-チャネル複合体やGIRKチャネルに対する拮抗作用の関与が指摘されている.
➋リチウム
炭酸リチウムは,内服後に消化管からすみやかに吸収される.血中に入ったリチウムは血漿蛋白と結合せず,膜チャネルやポンプを通り徐々に細胞内に移行する.細胞内濃度が上昇するには時間がかかる一方,細胞内に移行したものが細胞外へ再分布するのにも時間がかかる.そのため過量服薬による急性中毒では,時間とともに中枢神経症状がみられるようになる.またリチウムは生体内で代謝されず,ほとんどが腎臓から排泄される.塩分制限,脱水,NSAIDsやループ利尿薬などの併用は,リチウムの排泄率を低下させ,慢性中毒を引き起こす.慢性中毒では,リチウムの投与量を変更していないことも多く,中毒症状の発現に気づかれないことがある.またすでに多量のリチウムが細胞内に蓄積されていることから,症状は遷延・重篤化しやすい.
➌バルビツール酸類
中枢神経にあるGABA受容体・Cl-チャネル複合体の受容体に特異的に結合し,細胞内へのCl-流入を引き起こす.その結果,細胞の膜電位を過分極させ,中枢神経を抑制する.バルビツール酸類のうちフェノバルビタールは腸肝循環をするため,消失半減期が80~120時間と非常に長い.
▼中毒症状
➊三環系抗うつ薬
QRS・QTc時間の延長,房室ブロック,心室頻拍・心室細動などの心電図異常や,心筋収縮力の低下による低血圧といった循環器症状,昏睡やけいれんといった中枢神経症状を生じる.
➋リチウ
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