▼概説
有機リン系農薬は主に殺虫剤として使用され,ホームセンターなどでも容易に入手可能で,急性中毒の原因となる例も多い.有機リン剤にはさまざまな種類があるが,わが国では現在,マラチオン,ジクロルボス,フェニトロチオンなどが使用されている.有機リン剤を摂取するとアセチルコリンエステラーゼ(acetylcholine esterase:AChE)が阻害され,神経伝達が障害されることにより,副交感神経刺激症状を主体としたさまざまな症状を呈する.中間症候群,遅発性神経障害などの特徴的な病態にも注意が必要である.
神経剤であるサリンやVXなどは,化学兵器として合成された有機リン系の毒物である.基本的な病態は農薬の場合と同様であるが,毒性はきわめて強く少量でも致死的となる.わが国では,松本サリン事件(1994年),地下鉄サリン事件(1995年)で,一般市民に向けたテロで化学兵器が使用され,大きな被害を出した不幸な歴史がある.
▼毒性のメカニズム
アセチルコリン(ACh)は,副交感神経節前・節後線維,交感神経節前線維,運動神経神経筋接合部,中枢神経系において神経伝達物質として作用している.通常はAChはAChEによってすみやかにコリンと酢酸に分解される.有機リン剤を服毒すると,末梢神経だけでなく血液脳関門を通過し中枢神経にも侵入し,AChEの活性を阻害する.そのためAChが分解されずに過剰に蓄積する.その結果,アセチルコリン受容体(ムスカリン受容体,ニコチン受容体)が過剰に刺激され,ムスカリン様症状,ニコチン様症状,中枢神経症状が出現する(図14-6図).
毒物への曝露歴があり,特徴的なコリン作動性症状がみられ,血液検査で血清コリンエステラーゼ値が低下していれば,本中毒の可能性はきわめて高くなる.
▼中毒症状
有機リン中毒にみられる症状は,急性コリン作動性症候群,中間症候群,遅発性神経障害の
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