▼概説
ナス科タバコ属の熱帯地方原産の植物(Nicotiana tabacum)の名称.葉の成分として嗜癖性の強いニコチンを含んでおり,タバコの葉を原料の全部または一部とし,喫煙用,かみ用またはかぎ用に供しうる状態に製造されたものが法令上の「製造たばこ」である.日本では刻んだタバコの葉をフィルターのついた紙で巻いた紙巻きたばこが大半であるが,2010年以降,加熱式たばこや電子たばこといった新しい形状のたばこ製品も普及している.
日本中毒情報センターに問い合わせのある中毒事故で最も多いのがたばこの誤食で,1歳前後の乳幼児が最も多い.
▼毒性のメカニズム
タバコ中毒の原因物質であるニコチンはアルカロイドの一種で,無色の油状液体で揮発性をもつ.水溶性であり,水溶液は,初めは透明であるが空気に曝露されると次第に茶褐色となる.
紙巻きたばこの製品パッケージに記載されたニコチン量は,1本あたりの煙中に含まれる量を示すものであり,たばこそのもののニコチン含有量は1本あたり7~24mgである.
ニコチンの経口摂取による致死量は乳幼児で10~20mg,成人で40~60mgとされているが,具体的なデータに基づいた根拠はない.
ニコチンは,交感神経節および副交感神経節で,節後線維の細胞膜にあるニコチン受容体と結合する.低濃度であれば交感神経節興奮作用を生じるが,濃度が高くなると副交感神経節興奮作用を生じる.さらに高濃度となると,脱分極が持続するため神経節や神経筋の遮断作用を生じる.中枢神経系に対しては,最初は延髄中枢の興奮作用を生じるが,後に抑制作用に転じる.
経口摂取されると,すみやかに嘔吐中枢を介した嘔吐を生じ,消化管からの吸収も緩徐であるため,実際に吸収されるニコチン量は少ない.また,吸収後の大部分は肝臓に取り込まれて代謝されるため,体循環に移行するニコチンはごくわずかである.
▼中毒症状
➊軽