▼概説
中毒ともいえるが化学熱傷といっても差し支えない.酸やアルカリ,重金属などの化学物質が皮膚粘膜に付着,接触し生じる腐食や変性など組織破壊を伴った種々の腐食現象を化学熱傷という.
▼毒性のメカニズム
局所症状の痛みは,フッ素イオン(F-)が組織内のカルシウムと結合してフッ化カルシウムを形成するため,組織内のカルシウムイオンの欠乏が引き起こされ,細胞の膜電位が変化し神経終末からカリウムイオン(K+)が放出されることによるものである.
全身症状の不整脈はF-が皮下に浸透してカルシウムと結合して低カルシウム血症が出現するためである.
▼中毒症状
腐食による局所療法とF-による全身症状の両方を考える.
➊全身症状
吸入した場合は目や鼻,咽頭などの刺激,呼吸苦や肺水腫,肝障害や腎障害が起こる.経口の場合は嘔吐,下痢,出血性胃腸炎,出血性肺水腫や喉頭浮腫なども起こりうる.しかし,フッ化水素は基本的に常温で液体であり,経皮的な曝露の症例が多い.
➋局所症状
皮膚症状としては灼熱性の激しい痛みが特徴である.軽症例では紅斑や腫脹がみられるが,重症例では潰瘍や骨破壊に至ることがある.
▼治療
➊全身管理
もし,皮膚の化学損傷面積が50cm2以上なら入院,さらに100cm2以上の場合や経口摂取,吸入摂取,全身症状の徴候がある場合は,ICUへの入院を考慮する必要がある.心電図モニターにて不整脈の管理を行う.
➋吸収の阻害
特になし.
➌排泄の促進
1)強制利尿
腎排泄であるため十分な利尿を確保する.
2)血液浄化
フッ化物の除去と高カリウム血症のために血液透析が必要な場合もある.
➍解毒薬,拮抗薬
できるだけ早期にフッ化水素を取り除くことが大切なので大量洗浄と,一般的にはグルコン酸カルシウム薬を皮下注射し,範囲が広かったり低カルシウム血症の場合は静脈内注射,さらには必要なら動脈内注射を行う.疼痛が続いている間は組織