▼概説
ヒ素は原子番号33(元素記号As)で,第15族元素(窒素族元素)に属する.ヒ素単体,無機ヒ素および有機ヒ素として自然界に広く分布し,火山活動などでも環境に放出される.1998年の毒物混入カレー事件や2003年の井戸水汚染の中毒物質としても知られている.無機ヒ素には3価と5価の化合物がある.ヒ素の毒性は有機ヒ素より無機ヒ素のほうが強く,そのなかでも3価の亜ヒ酸塩が最も強い.
水銀は原子番号80の金属元素(元素記号Hg)で,第12族元素に属する.常温,常圧では凝固せず,銀のような白い光沢を放つ.水銀化合物は無機水銀と有機水銀の2つに大別される.水銀による急性中毒は高濃度の金属水銀の蒸気や無機水銀化合物の粉塵への曝露,さらに自殺目的の無機水銀化合物大量服用で起こる.有機水銀中毒は,魚介類などに含まれるメチル水銀の長期間摂取に起因する慢性中毒である.熊本県水俣市で最初に発見されたため水俣病ともよばれている.
▼毒性のメカニズム
ヒ素,水銀はいずれも蛋白質やグルタチオン,システインなどのスルフヒドリル(SH)基に結合し,多数の酵素系の活性を阻害することで細胞代謝を障害する.
ヒ素による急性中毒の多くは,無機ヒ素を経口的に摂取して起こる.水溶性の無機ヒ素化合物は経口摂取ですみやかに消化管から吸収される.吸収されたヒ素の一部は肝臓,腎臓,肺,脾臓,皮膚,毛髪などに蓄積されるが,多くは比較的すみやかに尿中へ排泄される.一方,皮膚,脳,骨格にはとどまりやすく,特にSH基を多く有するケラチンが豊富な毛髪と爪には高濃度に蓄積する.無機ヒ素の致死量は,2~3mg/kg,成人では100~300mgとされている.吸入や接触でも中毒をきたすことがある.慢性中毒はヒ素を扱う作業などを長年行うことで起こる.DNA損傷や染色体異常からの発癌性も指摘されている.
水銀化合物は単体の水銀よりも毒性が強い.無
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