▼概説
フグ中毒はフグに含まれる原因物質のテトロドトキシンを経口的に摂取することにより発症し,日本では1995年以降,フグ中毒による死者数はほぼ毎年0~3人で推移している.テトロドトキシンは細菌により産生され,食物連鎖による生物濃縮でフグに蓄積され,フグ以外ではツムギハゼやヒョウモンダコにも認められる.
▼毒性のメカニズム
テトロドトキシンは,フグの肝臓と卵巣に高濃度に含まれているが,種類によって腸や皮,筋肉にも含まれており,季節や産地によっても毒の強さは異なる.ヒトに対するテトロドトキシンの作用機序は末梢神経および骨格筋細胞に存在するテトロドトキシン感受性ナトリウムチャネル〔特にRanvier(ランヴィエ)絞輪に多く存在する〕を阻害することにより,活動電位の発生と興奮伝導が抑制され,運動麻痺,知覚異常,自律神経障害などの症状が出現する.フグ中毒患者では,外見上昏睡状態にみえても脳波や聴性脳幹反応は正常で中毒時の記憶も保たれていることから,テトロドトキシンは血液脳関門を通過せず,中枢神経には影響を与えないと考えられている.
▼中毒症状
初発症状は口唇周囲や四肢遠位端のしびれ感や異常感覚などの感覚障害である.重症度に応じてⅠ度からⅣ度に分類されている(表14-16図).フグを摂食してから,Ⅰ度の症状が出るまでの時間が短いほど,その後重症化する傾向があり,致死的である場合には摂食から1時間以内に症状が出現することが多い.
▼治療
フグ中毒の疑いのある患者は,来院時に症状が軽くても必ず入院させて経過を観察する.Ⅱ度以上の患者は,厳密な患者観察,モニター管理が行える集中治療室に入室させ,突然の呼吸停止に対応できる体制を整えておく.フグ中毒の治療では,呼吸筋麻痺による低酸素状態を起こさないことが最も重要である.血圧低下に対しては,輸液とカテコールアミン投与を施行する.胃洗浄は摂食後1時間以
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