診療支援
治療

1 熱中症
heat illness
三宅 康史
(帝京大学教授・救急医学講座)

疾患を疑うポイント

●暑熱環境に長くいる間の,またはその後の体調不良はすべて熱中症の可能性がある.

学びのポイント

●熱中症とは,暑熱環境にいる間の脱水による臓器虚血と臓器そのものが高温になることにより,脳,肝,腎,血液凝固系を中心に機能障害が生じたものである.

●若年~中壮年の暑熱環境での筋肉運動の最中に発症する労作性熱中症か,熱波が襲来して数日して徐々に発症する高齢者の古典的(非労作性)熱中症かを最初に考慮する.

▼定義

 熱中症とは,暑熱環境における身体適応の障害によって起こる病態の総称である.

▼病態

 発生機序は,古典的熱中症の場合には高温多湿環境に長期にいたこと,そして労作性ではそれに加えて自らの筋肉運動によって発生した体内の熱が加わって深部体温が上昇することが契機となる.高体温そのものによる臓器障害と,高体温を避けるために発汗や不感蒸泄によって失われた水分(水+電解質)欠乏による血管内容量の低下による臓器虚血(ショック)が各臓器の組織損傷を招き,血管内に流出した細胞構成成分が血管内皮細胞や白血球を刺激し,炎症性サイトカインが放出され,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation syndrome:DIC)を併発するに至る.また,腸管粘膜の熱と虚血による浮腫,壊死,透過性亢進から,その防御機構の破たんを招き,bacterial translocationにより敗血症性DICの要素も含む多臓器障害が進行する.

 死亡例は,日本救急医学会の分析結果から,入院初日~3日目に集中しており,死因が脳死や肝・腎不全ではなく,集中治療によっても制御不能の循環不全(心不全)であることが推測される.

▼疫学

 2012~2016年の6~9月に医療機関を受診し,熱中症の診断名が付いた症例を,厚労省が管轄するレセプト(診療報酬明細書)のビッグデータか

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