診療支援
治療

1 溺水
drowning
稲田 眞治
(名古屋第二赤十字病院・救命救急センター・センター長)

▼概説

 傷病者が液体中に沈み,気道入口部が液体に浸かった状態(浸水)で窒息が生じる障害を溺水とよぶ〔本章「中毒・環境要因疾患を理解するためのポイント」の項()参照〕.自ら企図しない状況で発生した場合は不慮の事故ととらえられる.

▼疫学

 日本における平成29年の人口動態統計によると40,329人が不慮の事故で亡くなった(全死因の第6位)が,このうち8,163人が不慮の溺死および溺水で亡くなっており,今や交通事故死(5,004人)よりも多くの方が亡くなる原因となっている.発生場所は家庭内が多く,とりわけ浴槽内での溺死および溺水は6,091人と,不慮の溺死および溺水の約2/3を占めている.浴槽に湯を張って入浴する日本特有の事情がかかわっているといえよう.

▼発症のメカニズム

 液体中での浸水による窒息で発生する.

 日本では,不慮の溺死および溺水の約2/3が浴槽内で発生しているが,家庭用の浴槽は通常深さ45~60cm程度である.にもかかわらず,浴槽内での溺死および溺水で亡くなった6,091人中,小児(15歳未満)は24人とわずか0.4%であり,成人が手足で体を支えられれば自ら脱出可能なはずの状況下で溺水が発生していることになる.

 つまり,最終的には浸水による窒息が生じていても,これに先立ち,なんらかの身体イベントが発生した結果,自ら体を支えられない状況のうえで溺水が発症していると考えられる.

 42℃の風呂に10分間入浴すると体温が38℃近くに到達するというデータもあり,熱中症の要素は考慮すべきである.また,脳卒中,虚血性心疾患などの内因性疾患が先だって発生している場合も多いだろう.

▼病態

 かつては,浸水する液体が海水か淡水か,あるいは気道入口部から気管へ流入した液体が肺胞に到達した(湿性溺水)か否か(乾性溺水)で病態を分類していた.

 海水は,塩分を3.5%含有し塩分の3/4は塩化ナトリ

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