診療支援
治療

1 減圧症状
decompression illness
柳下 和慶
(東京医科歯科大学医学部附属病院・高気圧治療部部長)

▼概説

‍ 減圧症は,深い潜水や長時間の高圧環境からの急速な減圧時もしくは減圧後に,組織内もしくは血管内に微小な気泡が生じ発症する.

‍ 急性動脈ガス塞栓は,減圧時に肺胞の膨張による肺胞破裂を生じ,動脈内に気泡が移行することにより発症する.

 減圧症と急性動脈ガス塞栓とも減圧時に発症することから,両者を合わせて減圧症状という.

▼発症のメカニズム

減圧症

 気体はBoyle(ボイル)の法則に従い,圧力と体積は反比例する.水深10mでは環境圧は約2気圧,20mでは約3気圧,30mでは約4気圧となる.水深30mで空気を吸入すると,大気圧(約1気圧)と比較して4倍の窒素や酸素を吸入し,血漿に溶解する窒素や酸素も約4倍となる.血漿に溶解した窒素などの生理的不活性ガスは徐々に血管外組織に溶解し,代謝されず,最終的には圧力に比例して組織に溶解し飽和する.このため,深い潜水や長時間の高圧環境では,高濃度の生理的不活性ガスが圧力に比例して組織に溶解する.しかしながら減圧時に急速に減圧すると,組織内に溶解した不活性ガスの血管内移行が間にあわず,ガスは組織内で過飽和状態となり気泡化し,血管内でも気泡化することがある.気泡による物理的な組織傷害や血管閉塞による虚血などの一次的障害に加え,二次的障害として気泡に起因する各種炎症性メディエーターが関与する虚血再灌流障害を発症する.ある程度以下の気泡では生体に影響を及ぼさないが,一定以上の気泡では減圧症が発症する.

 減圧症の発症リスクとしては,急速浮上,低圧環境である高所への潜水後の移動,水深50m以上の潜水,1日3回以上の潜水,水深40m以上の再潜水などがある.なお,水深7m以浅の潜水では気泡は形成されず,減圧症は発症しない.

急性動脈ガス塞栓

 減圧時に息こらえなどなんらかの原因で肺内圧力が高まり,肺過膨張による肺胞損傷により,気体が動脈系へ移行し発症する.浅

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?