診療支援
治療

頭蓋直達牽引とhalo vest固定
Skull traction and halo vest fixation
渡辺 航太
(慶應義塾大学 准教授)

【概説】

 牽引による脊柱疾患の治療の歴史は非常に古く,古代ギリシャ時代にヒポクラテスが脊椎の骨折や脱臼の整復に用いたとの記録がある.直達牽引では,頭蓋骨にピンを刺入するため侵襲性は高いが,直接的に脊柱に牽引力が加わるため,頚椎の脱臼もしくは脱臼骨折の整復に有効である.そして,ハローベスト(halo vest)はその整復を維持し治癒させる保存療法として使用されてきた.


1.頭蓋水平牽引

【適応】

 頚椎骨折や脱臼(環軸椎回旋位固定なども含む)の整復と整復位の維持,そして,これらの外傷の保存療法として使用される場合もある.その他,一時的な利用として,頚椎手術中の頭位固定,脊柱変形手術例の術中牽引などがある.術中の整復操作や矯正が必要な頚椎手術では,頭蓋水平牽引によるflexibleな固定が有効な場合がある.脊柱変形手術時では,牽引により脊椎インプラントに加わるストレスを軽減しながら矯正操作が可能になるので,骨が脆弱な変形例や重度の変形例には有効である.


実施上のポイント・注意事項

 小児も含めた頭蓋直達牽引の合併症は16~72%と高率である.その中でピン関連の合併症が19~29%と最も高率であった.その他,頭蓋骨の穿孔は硬膜損傷,眼窩蜂巣炎,気脳症,硬膜下血腫,脳脊髄液漏出へ進展する懸念があるのでしっかりと対応する.頚椎脱臼例において,脱臼整復後に神経症状が悪化した例が報告されているため,整復は覚醒下で行い,麻痺の悪化について十分に留意する必要がある.さらに,外転神経麻痺(第Ⅵ脳神経)による複視のほか,第Ⅸ,Ⅺ,Ⅻ脳神経麻痺も牽引による合併症として報告されている.ピンの不適切な設置により,浅側頭動脈損傷の可能性がある.


2.頭蓋垂直牽引(halo gravity牽引)

【適応】

 重度脊柱変形,特に頚椎後弯症や小児の胸椎側弯症および後弯症が適応になる.期待される効果として,栄養状態の改善,肺機

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