診療支援
治療

人工生体材料(人工骨)
Artificial biomaterials (artificial bone)
松原 秀憲
(金沢大学附属病院 講師)

【概説】

 生体材料(biomaterial;バイオマテリアル)とは「生命をもたず,医療器具に用いられ,生体との相互作用を意図された材料」と定義され,生体に適合する人工材料の総称である.主な生体材料として,金属,セラミックス,合成高分子,生体由来材料などがあり,医学の各分野において広く使用されている.金属にはステンレス,コバルト-クロム合金,チタン合金,タンタルなどが挙げられ,整形外科分野では骨折の内固定材料や人工関節,骨欠損部補塡に使われている.セラミックスには人工関節の一部としても使われているアルミナやジルコニア,そして人工骨の主成分であるハイドロキシアパタイトやリン酸三カルシウム(TCP)がある.合成高分子は,主に縫合糸に使われ,生体由来材料としては人工真皮,一部人工骨で使われている.


1.人工骨の歴史と背景

 重篤な骨折や骨腫瘍の切除後などにはしばしば骨欠損が生じるが,その場合は何らかの方法で欠損部を補塡する必要がある.最も一般的な補塡様式は骨移植であり,自家骨移植や同種骨移植が古くから行われている.自家骨移植は骨形成能に優れており,もともとの自分の骨を移植するため生体親和性が高い,しかし自分の骨の一部を採取する必要があるため侵襲的であること,欠損部に適した形状と大きさのものが必ずしも採取できないこと,採取する骨の量には限界があることなどの問題がある.

 一方,同種骨移植は,非侵襲的であり十分な量の骨を利用することができるが,自家骨に比べると骨形成能や親和性は劣り,感染症に罹患する懸念があるなどの問題点がある.またわが国では宗教的・文化的背景から同種骨が普及せず,合成セラミックスの人工骨が世界に先駆けて臨床応用された.1970年代以降は,硬組織修復用バイオマテリアルとしてのセラミックスの研究開発が進んだ.その結果,1980年代には生体骨の無機質主成分であるハイドロキシアパタ

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