外傷と障害の治療において,スポーツ選手と一般の患者との間に本質的な差違はない.しかしスポーツ競技者は,できるだけ早期に,かつ高いレベルで復帰することが常に求められている.さらに,スポーツ外傷の場合には再受傷予防が,障害の場合には再発予防が重要である.そのためには,競技者の身体的特性の評価に加え,各競技種目において要求される動作や身体負荷など,スポーツそのものに関する知識が必要となる.治療に入る前に,各種治療の意義,トレーニングの指導,また復帰の道筋を示すことも必要である.競技復帰にあたっては,可動域訓練・筋力訓練などのメディカルリハビリテーションに加え,競技種目に即したアスレチックリハビリテーションやコンディショニングを行い,監督・コーチ・トレーナーなどと相談して復帰のタイミングを決めていかなければならない(図3-1図).
1.背景を理解する
スポーツ外傷・障害を適切に診断し治療するためには,詳細な情報を適切に聴取し,選手の希望や目的を理解する必要がある.スポーツ外傷も障害も多くの場合原因がある.どのような受傷機転でけがをしたのか,どのような練習をしてきたのか(質,量,環境など),また既往歴などの情報は有用である.また,選手がどの時期にどれくらいのレベルに復帰したいかといった情報も,その後の治療方針に大きく影響する.
2.身体的特性を考慮する
スポーツ外傷・障害を治療するうえで大切なことは,選手の身体的特性を考慮することである.例えば回内足(扁平足)の選手にはシンスプリントが生じやすいとか,ジャンプ着地時にX脚傾向がある選手には前十字靱帯(ACL)損傷のリスクが高いといったことなどである.局所的な治療はもちろんであるが,スポーツ外傷・障害を引き起こす誘因となったリスク因子の評価が必須である(整形外科的メディカルチェックの項→参照).柔軟性や動的アライメントなど修正可能なリスク