診療支援
治療

スポーツによる上腕の外傷・障害
Arm problems associated with sports
今井 晋二
(滋賀医科大学 教授)

【疾患概念】

 上腕骨は近位部で肩関節を構成し,投球動作による障害や衝突にさらされる.遠位部では肘関節を構成しており,上肢全体のねじり動作にもさらされる.

(1)上腕骨近位骨端線離開

 上腕骨近位部の骨端線が存在する10~15歳程度の成長期に,投球動作によって同部にねじれと牽引力が加わり,骨端線が離開する.投球時の疼痛が主要症状で,投球休止ですみやかに痛みは軽快するが,左右を比較した単純X線での異常所見が消失する以前に投球を再開すると,疼痛も再燃する.これを不用意に繰り返すと,成長軟骨障害から上肢長の左右差を生じる.

(2)上腕二頭筋長頭腱炎

 上腕二頭筋長頭腱が徐々に変性を起こして腱線維がほつれ,癒着や腱の線維化が起こる.上腕二頭筋長頭腱の結節間溝内の腱鞘に水腫をきたし,腱の滑走が妨げられる.関節面前面の痛み,上腕内側の痛みをきたす.

(3)上腕二頭筋長頭腱断裂

 1回の強力な牽引でも断裂しうる.パラセーリング,ボルダリングなどで肘を曲げながら耐えつつ,外力により非常に強く肘伸展を強制されることで受傷する.上腕部に断裂感を感じ,激しい痛み,腫脹,脱力が出現する.このような若壮年者での断裂により,肘の屈曲力は健側比で50%強になるとの報告もあり,やはり高齢者の退行性断裂とは異なる.

(4)上腕骨近位部骨折

 70歳以上の高齢者に好発する上腕骨近位部骨折は,骨粗鬆症を基礎とし,軽微な外傷により発症するのに対して,スポーツ外傷としての上腕骨近位部骨折は,中高所からの転落や衝突を原因とする.骨質は良好で骨癒合はおおむね良好であるが,大小結節の偽関節や変形治癒は,筋出力低下や可動域制限,疼痛の原因となり,スポーツ復帰の妨げとなる.


問診で聞くべきこと

 初回問診において,受傷時の年齢,受傷機転,前医での画像診断の有無,症状(疼痛)の部位や性質,投球側が受傷側か,利き手はどちらか,肘屈曲位からの肘伸展強制

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