診療支援
治療

人工関節周囲の感染
Periprosthetic joint infection
稲葉 裕
(横浜市立大学大学院 教授)

【疾患概念】

 人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection;PJI)は人工関節手術後に生じた感染であり,術後早期に発症するものから術後長期間を経過して血行性に生じるものまでを含む.

【病態】

 感染経路として,①手術時における患者の皮膚常在菌や手術室の落下細菌の侵入,②術後の表層感染からの波及,③他部位の感染病巣からの血行性感染,がある.

 PJIではインプラント表面に付着した細菌がバイオフィルムを形成し,成熟したバイオフィルムから再び浮遊菌が放出されて,菌体を拡散する.バイオフィルム感染症は抗菌薬抵抗性を示し,生体の防御機構から逃れやすくなる.また,バイオフィルム内では細菌間の遺伝子水平伝播によって薬剤耐性化をもたらすことが知られており,しばしば難治性となる.


問診で聞くべきこと

 基礎疾患の有無,内服薬,薬剤アレルギー,人工関節手術の内容を確認する.糖尿病,関節リウマチ,human immunodeficiency virus(HIV)感染,血液透析などの易感染性宿主では,治療に難渋する可能性が高まる.


必要な検査とその所見

 ①血液生化学検査:C反応性蛋白(CRP)高値,赤血球沈降速度(ESR)の遅延を認める.カットオフ値は急性感染でCRP>10mg/dL,慢性感染でCRP>1mg/dL,ESR>30mm/時とされる.

 ②関節液検査:関節穿刺を施行し,関節液検査(細胞数,細胞分画,グラム染色および細菌培養検査)を行う.関節液検査はPJI診断において重要な検査であるが,採取困難例も存在する.

 ③細菌培養検査:インプラント付着組織およびその近傍の組織を,3~6か所から採取し,好気性・嫌気性培養に提出する.培養期間は5~7日間とする.弱毒菌感染が疑われる症例では,培養期間を14日間まで延長する.検体の超音波処理によりバイオフィルム内の細菌が浮遊し,検出率

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