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トピックス 整形外科における抗菌材料
白井 寿治
(京都府立医科大学 准教授)

 整形外科手術において術後感染症は深刻な合併症の1つである.術後感染を予防する目的で,さまざまな抗菌材料が開発されているが,基礎的な研究にとどまるのみで,その大部分が臨床応用されていない.現在,欧米ではゲンタマイシンをコーティングした脛骨髄内釘や創外固定のスリーブ,使用するインプラント周囲に塗布する抗菌薬を混ぜたハイドロゲル,銀コーティングをした腫瘍用人工関節が実用化されている.日本では2016年に銀コーティングを施した人工股関節が使用可能となっている.いずれの抗菌材料においても,術後感染の発生を抑制した良好な成績が報告されている.しかしその一方で,抗菌薬では持続期間や感受性,耐性菌などの問題が指摘されているほか,銀においてはアルギリア症(銀皮症)などの毒性や脳星状細胞への沈着なども報告されている.抗菌材料の開発に際しては,抗菌効果と副作用とのバランスが非常に難しい課題である.

ヨードコーティング

 ヨードコーティングインプラントは現在,臨床研究が行われている唯一の生体材料である.ヨードコーティングは,チタン製のインプラント表面に酸化被膜を形成し,その被膜内に電気的にヨードを含浸させる技術である.筆者らは,これまで基礎的研究における抗菌性および安全性に加え,臨床研究においても術後感染を抑制する良好な成績を報告してきた.さらに,術後感染例に使用し,再感染率を低下させた報告も行った.ヨードは抗菌薬と違い,非常に広域な抗菌スペクトラムを有し,耐性菌を生じることはない.また,銀とは異なり,元来体内に存在する微量元素の1つであり,甲状腺ホルモンの合成に必須である.昔から消毒薬として医薬品に使用されており,CTの造影剤にも使用されていることから生体への安全性も高い.さらに,チタン表面の酸化被膜内に含浸させることで,体内埋入1年後でも抗菌効果を有し,バイオフィルム形成を抑制することが証明され

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