【疾患概念】
急性動脈閉塞とは,何らかの原因で動脈が急激に閉塞しその潅流域の臓器や組織に虚血性傷害をきたす病態であるため,原理的には全身のあらゆる部位で起こりうるが,本項では一般整形外科医が遭遇する可能性が高いであろう,四肢の動脈閉塞に限って述べることとする.左房内血栓など閉塞源が遠隔部にある場合を塞栓症,病変部にもともとあった慢性狭窄病変が局所で血栓閉塞した場合を血栓症とよび,それぞれ異なる病態と考えられるが,現実には両者の区別が明確でないことも多い.いずれにせよ大切断を避けるためにはすみやかな診断と治療が不可欠であり,四肢末端に冷感を伴う急激な疼痛を訴える患者を診療した際には,常に念頭におくべき疾患である.
問診で聞くべきこと
疼痛(pain)・蒼白(pallor)・脈拍消失(pulselessness)・感覚鈍麻(paresthesia)・運動麻痺(paralysis)が,急性動脈閉塞の主要5症状(5P)である.発症後経過時間が患肢の予後を規定するため,疼痛発現時刻をまず確認する.既往に高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などの動脈硬化リスクファクターが存在する場合は血栓症の可能性が高く,心房細動などの不整脈が存在する場合は塞栓症の可能性が高い.閉塞発症以前に局所の動脈病変が存在していなかったぶん,塞栓症のほうが激烈な症状を呈することが多い.
必要な検査とその所見
問診より急性動脈閉塞を疑った場合は,直ちに四肢の動脈拍動を触診する.上肢においては肘窩で上腕動脈拍動,手関節部で橈骨動脈と尺骨動脈拍動の有無を確認し,下肢においては鼡径部で大腿動脈拍動,膝窩部で膝窩動脈拍動,足関節部で後脛骨動脈拍動,足背部で足背動脈拍動の有無を確認する.拍動触知が不明瞭な場合はドプラ聴診器も併用する.カラードプラ機能を備えた体表超音波検査も,簡便性と迅速性の観点から非常に有用であり,手慣れた検者が