診療支援
治療

高齢者の移動能力評価
Assessment of locomotion ability of elderly persons
矢吹 省司
(福島県立医科大学保健科学部 学部長)

1.高齢者の特徴

 人間の身体機能や精神機能は出生後から向上し,20~30歳程度でピークを迎える.その後は次第に低下していく.運動器リハビリテーションに関して重要なものとしては,筋肉量減少,筋力低下などの身体機能の低下がある.移動能力の維持・向上のために行う運動器リハビリテーションにおいて,高齢者では以下に示す変化が影響する可能性がある.これらの変化にも注意する必要がある.

・運動器系:筋萎縮・筋力低下,骨萎縮,関節変性.

・神経系:脳萎縮,不眠,記憶力低下,注意力低下,思考力低下.

・感覚器系:視力低下,聴力低下.

・循環器系:心拍出量低下,不整脈増加,動脈硬化.

・呼吸器系:肺コンプライアンスの低下,残気量の増加,痰排出力低下.


2.移動能力評価

 移動能力の評価法はさまざま存在するが,ここでは以下の3つについて記載する.

【1】6分間歩行テスト

 自分のペースで6分間に歩くことができる最大距離を測定する検査である.文部科学省の体力テストにおいても高齢者の全身持久力を評価する指標として採用されている.高齢日本人の平均歩行距離は500~550mである.6分間歩行テストで400m以下になると外出に制限が生じ,200m以下では生活範囲がきわめて限られる.

【2】Timed up-and-go test(TUGT)

 椅子に座った姿勢から立ち上がり3m先の目印点で折り返し,再び椅子に座るまでの時間を測定する検査である.危険のない範囲でできるだけ速く歩くように指示する.所要時間は加齢とともに遅くなり,70歳では平均9秒程度,80歳では11秒を超すと報告されている.10秒未満のものは自立歩行,11~19秒では移動がほぼ自立,20~29秒では歩行が不安定,そして30秒以上は歩行障害ありと評価される.運動器不安定症と診断される11秒というカットオフ値は,早期発見の観点からは妥当な値である.

【3】ロコモ度テスト

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