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トピックス 運動器疾患と機能的電気刺激
島田 洋一
(秋田県立療育機構 理事長〔秋田市〕)

 脊髄損傷などの中枢神経障害による運動麻痺では,末梢運動神経とその支配筋に正常な電気生理的興奮性が残存していることが多い.このような麻痺では,大脳皮質運動野からの随意的運動命令が末梢に伝達されず,随意的筋収縮ができない状態である.したがって,中枢神経からの興奮性インパルスの代わりに,電気刺激を末梢運動神経に直接加えて麻痺筋を収縮させることが理論的に可能である.機能的電気刺激(functional electrical stimulation;FES)は,この原理に基づきプログラムされた動作刺激を複数の刺激電極を介して麻痺肢に与えることで,合目的動作の再建を行う医用工学的治療法である.一般的な電気刺激治療との違いは,麻痺筋に対する筋萎縮・筋力回復や痙性改善などの治療的効果だけにとどまらず,障害または喪失した生体運動機能の補完・再建が可能になることである.FESで使用する電極は,表面電極,経皮的埋め込み電極,完全埋め込み電極の3種類あるが,現在わが国で薬事承認を取得しているのは表面電極システムである.

 FESは,主に脊髄損傷や脳卒中など中枢神経障害による四肢麻痺,対麻痺,片麻痺などに適応がある.具体例では,脊髄損傷四肢麻痺上肢(特に手指)のグリップやピンチなどの把持動作,対麻痺下肢の起立歩行動作などの実用的再建,痙性や失調歩行における制御などが可能である.適応上の留意点としては,末梢運動神経障害を伴う麻痺に対しては,その効果が限定されることである.脊髄損傷で馬尾損傷を伴っている場合や,損傷高位での前角細胞損傷が生じているときには,混在する末梢神経麻痺のため目的とするFES動作再建が困難な場合があり,適応を慎重に見極める必要がある.

 麻痺肢に対するFES治療は,上肢を中心に十分な実用レベルに達している.近年,脊髄再生治療やリハビリテーションロボットなどの分野の先進治療が飛躍的に進

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