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肩関節の機能解剖
Functional anatomy of the shoulder
今井 晋二
(滋賀医科大学 教授)

1.肩甲上腕関節と関節包靱帯

 肩甲上腕関節自体は上腕骨頭と肩甲骨関節が関節面を構成しているが,広範囲に関節面を臼蓋が覆っている股関節と異なり,上腕骨頭関節面の面積と関節窩関節面の比は,4:1に過ぎない.骨性支持が少ないことは,人体の関節のなかで最大の可動域を可能にする一方で,強固な安定性を欠き,最も脱臼しやすい関節であることに直結する.関節窩の骨性陥凹は浅く,関節窩辺縁に付着している関節唇がこれを補うことで,骨性陥凹の2倍の深さを得ている.関節窩陥凹は上下方向に深く,前後方向に浅い.当然,前後方向への制動力が弱く,肩関節脱臼の9割以上が前方への脱臼であることに関与している.

 関節窩前後径の骨欠損が25%以上になると,何らかの方法で骨欠損を回復しなければ,後に述べる軟部組織のみの支持機構再建では,脱臼の防止は困難である.腸骨から骨移植する方法以外に,烏口突起の先端部分を関節窩前方の骨欠損部に移行する,烏口突起移行術が行われる.烏口突起移行術には,切離した烏口突起の向きと骨片の長さの違いでBristow法とLatarjet法があるが,どちらにも近年では内視鏡手術が試みられている.

 関節の安定化に寄与する軟部機構としては,まず上方,前方,下方の関節包が挙げられる.すなわち,肩甲上腕関節の関節包は,関節上腕靱帯を構成し,関節の安定化に寄与している.上方から順に上関節上腕靱帯(superior glenohumeral ligament;SGHL),中関節上腕靱帯(middle glenohumeral ligament;MGHL),下関節上腕靱帯(inferior glenohumeral ligament;IGHL)があり,前方への関節安定化機構として働くが,それぞれ最も緊張が高くなる肢位が異なる.すなわち,SGHLは肩関節下垂位で,MGHLは45°外転位で,IGHLは90°外転

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