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治療

肩関節のバイオメカニクス
Biomechanics of the shoulder
菅本 一臣
(大阪大学大学院 教授(運動器バイオマテリアル学講座))

 肩関節の特徴として1つ目は動かされる回数が最も多いこと,2つ目には可動域が最も大きいこと,3つ目には骨の安定性が悪いことが挙げられる.さらに上肢が肩甲骨を介して常に吊り下げられた状態にあることも特徴として挙げられる(懸垂関節).

 これらの特徴を理解しながらその一方で肩関節の動きのメカニズムを理解することが病態の理解や治療を考えるうえで重要である.


1.肩鎖関節の3次元動態

 これまで肩鎖関節はほとんど動きのない関節であると考えられてきた.しかしその動きは必ずしも少なくないことが明らかとなった.上肢挙上では鎖骨は肩甲骨に対して肩甲骨部と烏口突起基部を結ぶ直線を回転軸として平均で約35°前後方へ回旋する(図11-6).


2.烏口鎖骨靱帯の意義

 肩鎖関節部での動きを安定して行わせるために烏口鎖骨靱帯がある.烏口鎖骨靱帯は菱形靱帯と円錐靱帯の2つで構成されているが,それらは肩鎖関節の動きを可能にする重要な構造である.


3.上肢外転挙上における肩甲上腕関節および肩甲胸郭関節の3次元動態

 上肢を外転挙上させる際に,上腕骨と肩甲骨は常に一定の割合で外転していくことがInmanらの解析で明らかにされている.肩甲上腕関節は絶えず上肢外転角度の2/3を担い,一方肩甲胸郭関節は上肢外転角度の1/3を担いながら動いていく.これは肩甲上腕リズムと名付けられているが,肩関節の基本的な動きとして理解する必要がある.

 上肢外転挙上の際のそれら以外の3次元的な動きも近年明らかにされているが,肩甲骨には後傾,内転,挙上が同時に生じている.


4.上肢外転挙上における肩甲上腕関節での関節動態

 さらに上肢外転挙上時,関節窩上を上腕骨頭がどのように動くのだろうか? 図11-7は上腕骨頭を基準に関節窩の移動する軌跡を示したものである.上腕骨頭の下縁をスタートして,骨頭の後縁をたどるようにして上方へ移動していき,最終的には結

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