診療支援
治療

非外傷性肩関節不安定症
Atraumatic shoulder instability
井樋 栄二
(東北大学 名誉教授/東北労災病院 副院長〔仙台市青葉区〕)

【疾患概念】

 肩関節は球関節であり,丸く大きな上腕骨頭が小さな受け皿である肩甲骨関節窩の上に乗っている.上腕骨頭に対して関節窩の面積は約1/4に過ぎず,骨性の支持が少ない関節である.その結果,肩関節の安定性は軟部組織,特に関節包に依存する割合が大きい.関節包は関節の動きとも密接に関係している.肩関節が90°外転・最大外旋・最大水平伸展のような最終可動域までくると関節包が緊張し,安定化機構として働く.しかし,下垂位のような中間可動域では関節包は弛緩しているため,骨頭を関節窩に引きつけておくことはできず,筋肉が弛緩していれば骨頭は関節窩の上を前後・上下方向に動くことができる.この動きを動揺性と呼んでいる.動揺性には正常値がなく,人によっては亜脱臼や脱臼を自発的に誘発することができる場合もあるが,臨床症状がない限りそれは生理的な状態であり治療の対象にならない.動揺性が大きく,その結果として痛みなどの臨床症状を伴うようになると,これを不安定症と呼ぶ.これは病的状態であり治療の対象となる.非外傷性不安定症にはいくつかの種類があるが,臨床上,最も高頻度に見られるのは動揺性肩関節(多方向不安定症)と習慣性肩関節後方不安定症である.

 なお,「脱臼」「亜脱臼」という用語であるが,上腕骨頭と関節窩の適合が完全に失われた状態を「脱臼」,関節面の一部が接触している状態を「亜脱臼」と定義するが,両者を正確に鑑別するためにはその時点でX線などを撮る必要があり現実的ではない.そのため,臨床的には自己整復できないものを「脱臼」,自己整復できるものを「亜脱臼」と呼んで区別している.しかし,脱臼していても自己整復できる場合も多々あり,両者を正確に鑑別することは困難である.一方,脱臼でも亜脱臼でも治療法の選択には影響しないことから,最近では病名としては「不安定症」という用語でひとまとめにすることが多くなっている

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