診療支援
治療

上腕二頭筋腱の障害
Disorder of the biceps tendon
西中 直也
(昭和大学大学院保健医療学研究科 教授)

【疾患概念】

 上腕二頭筋腱は長頭(以下長頭腱)と短頭の2つの筋頭からなり,長頭腱の障害が臨床上問題となる.長頭腱の機能は大きく2つあると考えられており,上腕骨頭のdepressor機能と肩甲上腕関節の安定化機能である.長頭腱は関節窩上縁の関節上結節および上方関節唇から起始し,関節内,結節間溝を通過し橈骨結節粗面に停止する.Biceps pulleyとよばれる滑車部の複合体がその支持性に寄与し,その構造は前方で烏口上腕靱帯,上関節上腕靱帯,肩甲下筋腱,後方で棘上筋腱からなる(図11-14).これらの支持組織が変性や外傷により破綻すると,長頭腱に結節間溝レベルでさまざまな病態が発生すると考えられる.病態として腱の炎症,変性,断裂,脱臼を引き起こす.本項では比較的頻度の高い長頭腱炎,長頭腱断裂,長頭腱脱臼について解説する.


1.上腕二頭筋長頭腱炎tendinitis(tenosynovitis) of the long head of the biceps

【臨床症状・病態】

 結節間溝での機械的刺激が原因で炎症が生じる.患者の多くが肩前面の痛みを主訴に来院する.挙上位での繰り返しの作業やオーバーヘッドスポーツで生じることが多い.炎症,変性が過度に進行すると,pulley部で生理的な動きが損なわれることもある.


問診で聞くべきこと

 年齢,利き手,職業,趣味(スポーツ歴含む).


必要な検査とその所見

 結節間溝部の圧痛と挙上時の痛みと,これらによる上腕二頭筋の筋力低下を認める.徒手検査法として,Yergason test(肘関節90°屈曲位で前腕を回外させると結節間溝部に疼痛を訴える)とSpeed test(肘関節伸展位で肩を前方挙上させると結節間溝部に疼痛を訴える)が陽性となる.

(1)画像診断

 超音波検査およびMRI検査:長頭腱の腫大や腱周囲の水腫が認められる.


治療方針

【1】保存治療

 局所

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