【疾患概念】
上肢外傷後に発生した拘縮と麻痺をRichard von Volkmannが初めて報告したことから,この名称が用いられている.上腕動脈の損傷で前腕の筋肉が阻血に陥ったり,前腕の筋肉が圧挫による直接損傷を受けたりすることで,前腕のコンパートメント症候群を発生することが原因である.コンパートメント内圧が高くなるため,前腕筋肉内の微小循環が障害され,筋肉は阻血性壊死に陥っていく.したがって,コンパートメント内圧が高まるのであれば,その原因は上腕骨顆上骨折に伴う上腕動脈損傷のみならず,前腕の包帯による緊縛でも,きつ過ぎるギプス固定でも,睡眠薬過剰摂取による前腕の長時間の下敷きでも可能性はある.最近では,小児の上腕骨顆上骨折に伴う上腕動脈損傷への注意喚起の啓蒙が行き届き,ほとんど発生をみなくなっている(図14-9図).しかし,労働災害や自動車事故などでの前腕への直接圧挫による症例は散見される.
【病態】
筋肉の壊死,線維化,瘢痕化が広範囲に進めば,拘縮の程度は強くなる.前腕筋肉の阻血は屈側・深部ほど高度になるため,深指屈筋,円回内筋に最も拘縮が強く発生する.そのため手指・手関節の屈曲拘縮と前腕の回内拘縮が生じる.阻血により,正中神経や尺骨神経にも障害が及んで,神経麻痺による鷲手変形を呈するようになる.また手内筋にも阻血が及び,手内筋拘縮を生じることもある.
【臨床症状】
早期の場合には,前腕コンパートメント症候群の症状であり,橈骨動脈の触知困難・疼痛・腫脹・他動指伸展による激痛がある.完成してしまうと,阻血性壊死・線維化・瘢痕化のために,前腕屈筋群の機能障害が生じる.物の把持が困難になり,また手指の伸展ができないため机に手を着くなどの動作ができない.また正中・尺骨神経麻痺のため鷲手変形〔中手指節(metacarpophalangeal;MP)関節過伸展,近位指節間(proxi