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治療

手の解剖
Anatomy of the hand
二村 昭元
(東京医科歯科大学大学院 運動器機能形態学講座 教授)

1.手掌

【1】皮下・浅層

 手掌と足底の皮膚には,ほかの部位の皮膚とは異なり,表面に指紋や掌紋という皮膚紋理(dermatoglyphics)がある,表皮の角質層が厚い,毛と脂腺がない,汗腺が豊富,色素が乏しい,知覚性の神経終末に富む,などの特徴を有する.また,疎性の皮下組織が少なく,皮膚の表面に対して垂直に走る結合組織線維(皮膚支帯)により,真皮が下層の腱膜に固く密着して,物を握るときに皮膚がずれないようになっている.

 手掌腱膜は長掌筋の停止腱膜で,手掌では4尖に分かれて母指を除く示~小指の基部に向かって放散する.

 短掌筋は手掌腱膜の尺側縁より起こり,小指球の皮下に停止する.小指を強く外転させると,短掌筋の収縮によるシワが小指球上に観察できる.短掌筋はヒトにだけ存在し,一般の霊長類では欠如している.これは握る機能に伴って発達したと考えられている.

【2】動脈と神経

 浅掌動脈弓は主として尺骨動脈によって構成される(図16-1a).橈骨動脈から浅掌動脈弓への枝は,きわめて細く,多くの場合は母指球の筋を貫いて手掌に達する.しかし,この枝がきわめて細いか欠く例が半数とされ,橈骨動脈と尺骨動脈の吻合による典型的な浅掌動脈弓の形成は14%にすぎない.浅掌動脈弓は,小指尺側に固有掌側指動脈と3~4本の総掌側指動脈を出す.総掌側指動脈は2本の固有掌側動脈に分かれ,2本の指の対向縁に血液を供給する.

 尺骨神経は尺骨動脈に伴行して,豆状骨の橈側に位置する尺骨神経管(Guyon管)を通過する.その後,屈筋支帯の表層に達し,浅枝と深枝に分かれる.浅枝は短掌筋に分枝したのち,第8~10指縁に対する固有掌側指神経となる.深枝は尺骨動脈の深掌枝とともに小指外転筋と短小指屈筋の間を通り,手掌の深層に達する.

 正中神経は,手根管を経て手掌に達するが,屈筋支帯の遠位縁をまわり,母指球筋に分布する反回枝を出す.

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