【疾患概念】
手指末節部の屈筋腱,伸筋腱付着部より末梢の欠損損傷であり,主として労災事故などで生じることが多い.
【病態】
損傷のレベルと程度でさまざまな病態を呈する.予後を規定するのは,末節骨,爪床,爪母などの爪甲を司る背側損傷の程度と,腹側の軟部組織損傷の程度である.このなかで爪床,爪母は再建が難しく,末節骨や腹側軟部は再建が比較的容易である.このことが予後を決定する.
問診で聞くべきこと
損傷の病態は肉眼所見で明らかである.問診では治療に影響を与える要因について聴取する.1つは感染の危惧を予想する細菌汚染の程度を,受傷機転などから類推することである.もう1つは年齢,性別,職業などの患者背景などから要望を類推し,患者の希望を尋ねることである.
必要な検査と所見
単純X線画像は必須であり,理学所見として残存皮膚の血行状態と知覚検査を行う.そして,最も重要な爪床,爪母の温存状態を調査する.
大まかな治療方針
指尖部損傷には大きく分けて,「保存治療」「各種皮弁治療」「composite graft」「再接合術」の4つが存在する.
専門病院へのコンサルテーション
指尖部損傷における治療法判断はきわめて困難である.明らかな保存治療の適応以外は,専門病院へ送るべきである.
具体的治療方針
石川の損傷分類レベル(図16-9図)と年齢に応じて,治療再建方法を選択するのがよい.
切断末梢部に吻合が可能な血管が残存していれば,再接合術施行の可能性があるが,その成功は損傷の度合いよりも術者の技量に強く依存する.軽率に手を出す治療ではない.
10歳以下の小児には,まずcomposite graftを施行する.もしも,graftが不生着に終わった場合には,成人の方針に移行する.
年長児あるいは成人の石川zoneⅠの損傷においては,保存治療(occlusive dressing法)で満足すべき指尖部が再建でき