【疾患概念】
ある特定の動作を行う,または行おうとした際に,不随意の筋緊張の亢進(痙縮)や姿勢・肢位異常を起こし,その動作に支障が生じるものを動作特異性ジストニアという.上肢の動作特異性ジストニアとして,書字動作によって起きるものを書痙,楽器演奏によるものを楽器奏者クランプとよび,これらは基本的には同じ病態と考えてよい.理髪師や美容師,調理師,彫刻家などでも同様の症状を呈すことがある.
大量の書字や動作の反復練習が発症の契機となることが多く,他の動作では症状が出現しにくいこと,人前で症状が悪化することなどから心因性と扱われてきた経緯があるが,近年では同一の動作を繰り返すことで,大脳運動野-淡蒼球-視床-大脳運動野という皮質基底核視床回路に促通経路が形成され,これが特定の動作によって発振してしまうことで生じるという考え方が主流になりつつある.
【臨床症状】
書字の際,手指が異常に緊張して筆圧が高くなり,書字速度は遅く,書字がスムーズに行えない.母指は屈曲位をとることが多く,楽器奏者などは母指が「巻きこまれる」と表現することがある.緊張が手よりも近位に及ぶものでは肩や上腕のこりを訴える.箸の使用やつまみ動作など,書字以外の動作が障害されることもある.
診断のポイント
典型例では上記の臨床症状から診断は比較的容易である.振戦を伴う場合にはParkinson病や甲状腺機能亢進症,アルコール依存症,その他脳疾患などを鑑別する必要がある.
治療方針
【1】筆記具や筆記法の指導
把持する部分が太く,低い筆圧で書ける筆記具の使用を試みる.またあえて書き順を逆にして書字させる「脱・書き順法」が有効であるとの報告がある.
【2】薬物療法
書字困難の不安感が強いものには抗不安薬を,筋緊張に対してはトリヘキシフェニジルなどの抗コリン薬の投与を試みるが,あくまで対症療法であり,有効性は低いとされる.