診療支援
治療

複合性局所疼痛症候群(CRPS)
Complex regional pain syndrome
平田 仁
(名古屋大学大学院 教授(手の外科学))

【疾患概念】

 基本的には打撲,切創,捻挫,閉鎖性骨折,小・低侵襲手術など比較的マイナーな外傷に続発して,高度で持続性の局所性疼痛を生ずる疾患である.アロディニアなどの感覚障害に加え,血管活動性異常,浮腫・局所性多毛,骨・関節・軟部組織の異栄養性変化,運動制御異常・情緒障害など多様な異常が出現する.米国人医師Silas Weir Mitchellが南北戦争において,銃傷に伴う比較的軽傷の末梢神経損傷例にまれに認める状況として,カウザルギアとよんで詳細に報告したことに始まる.その後ドイツ人医師Paul Sudeckが,骨折により誘発される例を報告した.以後も不可解な難治性疼痛として散発的に報告されていたが,1947年に米国人医師のJames EvansがRene LericheやWilliam Livingstoneの考えを取り入れ,脊髄レベルでの侵害受容ニューロンと交感神経の短絡を原因とする,交感神経系の局所性過興奮が多様な症状の原因と説明してreflex sympathetic dystrophy(RSD)との病名を提唱し,症例の大半がSudeckの報告したような神経損傷を伴わない症例であることを報告した.これが長年にわたり広く受け入れられていた.しかし,1980年代になり多くの症例で交感神経の過活動をいずれの時期にも認めないことが確認され,1988年に国際疼痛学会から複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome;CRPS)との病名が提唱された.CRPSは神経損傷を伴わないものをⅠ型,神経損傷に合併するものをⅡ型と分類したが,Ⅱ型の存在には懐疑的な研究者も多く,当初よりⅡ型の診断には確実に末梢神経損傷を証明できることを要件とした.CRPSⅠ型が症例の8~9割を占める.しばしば単なる神経障害性疼痛がCRPSⅡ型と診断されており注意が必要で

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