【疾患概念】
自動車にヘッドレストが整備されていなかった時代に,追突事故後に頚部痛をはじめとしたさまざまな症状を呈し,骨折や脱臼がない頚椎部の軟部組織損傷で“むち打ち損傷”と呼ばれていたものである.外傷性頚部症候群の定義は「頚部外傷によって生じた頚椎ならびに神経の構築学的,神経学的帰結で,運動および神経系の多彩な異変だけでなく,精神神経学的ならびに耳性学的,視覚平衡機能障害をも伴う症候群」とされている.
【病態】
これらは医学的見地に基づいた診断名ではなく,現在では,頚椎部に外力が加わった際に生じる障害を総称した“外傷性頚部症候群”の診断名で扱われている.この病態は古くから存在したものではなく,昭和39年にマスコミで「むち打ち症」という概念が大々的に報道されてから,報道される前の昭和38年と比較すると4年後の昭和42年には約34倍に急増したものであり,器質的な病態ではなく,心理社会的な病態と考えられる.外傷性頚部症候群は交通事故などにより生じ,痛みなどの自覚症状を有する.
問診で聞くべきこと
痛み・しびれの発現時期・程度,頚椎の可動域,運動麻痺の有無
必要な検査とその所見
神経学的診察(Jacksonテスト,Spurlingテスト,水野テスト,深部腱反射)
頚椎のX線検査[正面,側面,機能撮影〔前屈・後屈(麻痺がない場合)〕]
MRI(脊椎・脊髄所見のみならず,皮下出血・筋肉内出血などの軟部組織の異常所見確認)
診断のポイント
症状および画像検査,神経生理学的検査により外傷による器質的な異常がないことから診断する.神経障害性疼痛の診断には神経支配領域の知覚低下,支配筋の筋力低下,支配神経の神経反射異常を確認する必要がある.外傷性頚部症候群は,患者自体が自覚症状を持ちながら,客観的な所見が捉えられないことがほとんどであり,難治化する症例は少なくない.Barré-Liéou症候群と呼ば