診療支援
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トピックス 脊髄における拡散テンソルトラクトグラフィー
辻 収彦
(慶應義塾大学 特任講師)

 組織内の水分子の拡散情報を検出・可視化したのが拡散強調像(diffusion weighted MR imaging;DWI)であり,DWIはすでに実臨床の現場において,超急性期から急性期の虚血性脳・脊髄血管障害の診断に必須である.脊髄の白質のような,長軸(頭尾側)方向に走行する神経軸索など一定の方向性を有する生体構造の中においては,水分子の拡散が制限されている.この制限構造に着目し,水分子の拡散異方性を捉えようとするMRI像を拡散テンソルイメージング(diffusion tensor imaging)といい,さらに,拡散異方性を追跡することにより白質神経線維の走行を描出した画像を,拡散テンソルトラクトグラフィー〔diffusion tensor (fiber) tractography;DTT〕とよぶ.

 筆者らはこれまでに,DTTが脊髄白質線維の軸索の状態を反映している組織学的裏付けを,サル脊髄半切モデルを用いて行い,大脳皮質の一次運動野から脊髄へ下行する皮質脊髄路の,解剖学的唯一の証拠といえる錐体交叉を描出し,さらには適切なFA(fraction anisotropy)閾値設定下で損傷後神経線維が途絶することを示した(図17-13).また自然発症脊柱靱帯骨化モデルマウスであるtwyマウスを用いて,同一個体における脊柱靱帯骨化進展と脊柱管狭窄・脊髄内での軸索変性を経時的にDTTで評価し,脊柱管狭窄率進展と温存される神経線維比,さらには後肢運動機能との間に相関を見出し,DTTでの定量的パラメータ評価が脊柱管狭窄進展に先立って低下する,すなわちより鋭敏に脊髄神経変性を捉えた.

 これらの動物実験の結果に基づき,実臨床において圧迫性脊髄症の術前後評価をDTTにより行い,術後頚椎JOAスコア改善率と関連する因子を探索した.DTTでの定量的評価には,健常部と損傷部におけるDTT

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