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股関節の機能解剖(バイオメカニクス)
Functional anatomy and biomechanics of the hip joint
大谷 卓也
(東京慈恵会医科大学附属第三病院 教授)

1.股関節の機能解剖

【1】骨軟骨形態の機能解剖

 大腿骨頚部~骨頭には125°程度の頚体角と10~30°の前捻角が存在する.寛骨臼は30~40°の外方開角と30~40°の前方開角を有する.このような股関節の大腿骨頭軟骨面と寛骨臼軟骨面がすっぽり納まるように適合する股関節肢位は,屈曲約90°でわずかな外転,外旋位,すなわち四つ這いの姿勢である.ヒトの股関節構造はいまだに四足獣に適したものであり,二足獣としての起立位では骨頭軟骨前方が被覆不全を呈し,もともと生体力学的に厳しい環境であることをまずは念頭に置く必要がある.

【2】関節包,靱帯の機能解剖

 股関節では,頚部から骨頭が円筒状の関節包・靱帯に取り囲まれている.前面の腸骨大腿靱帯,前下面の恥骨大腿靱帯,後面の坐骨大腿靱帯が重要で関節安定性に寄与する.これらの靱帯はいずれも股関節伸展位で緊張し,屈曲位では弛緩するような走行であるため,関節スタビライザーとしての機能は股関節伸展位においてより高い.

【3】股関節周囲筋の機能解剖

 股関節周囲には多くの筋肉が存在し屈曲,伸展,内転,外転,内旋,外旋などの作用を行う.筋肉の機能解剖につき認識しておくべきいくつかの点を挙げる.

①股関節と膝関節に関与する二関節筋の股関節作用は,常に膝関節肢位に影響を受ける.例えば大腿直筋の股関節屈曲作用は膝伸展位よりも膝屈曲位において強力であり,また,ハムストリングス(大腿二頭筋,半腱様筋,半膜様筋)の股関節伸展作用は膝伸展位においてより強力となる.あるいは,股関節の他動的伸展可動域をチェックする場合,膝伸展位での股関節伸展は関節包靱帯が制御するが,膝深屈曲位では伸展可動域が減少し,これは大腿直筋による制御が働いたものである.

②3度の運動自由度を持つ股関節の運動筋は,関節肢位により働きが変化するという特徴を持つ.例えば,多くの股関節内転筋群は内転とともに屈曲作用

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