診療支援
治療

大腿骨頭すべり症
Slipped capital femoral epiphysis (SCFE)
大谷 卓也
(東京慈恵会医科大学附属第三病院 教授)

【疾患概念と発症要因】

 大腿骨近位成長軟骨板が負荷される荷重に耐え切れず,骨端が骨幹端に対して後内方に転位する(すべる)疾患である.小児の成長が盛んなgrowth spurtの時期を中心に発症する.本症の発症には複数の要因が考えられている.古典的には内分泌学的な異常が指摘され,成長ホルモンと性ホルモンの不均衡,下垂体機能低下症に対する成長ホルモン補充療法などに関連した発症の報告があるが,実際の臨床例で明らかな内分泌学的異常を認めるものは多くない.次に力学的な要因として,肥満とスポーツ活動が重要と報告されている.成長過程で力学的に脆弱化した成長軟骨板に対し,体重増加やスポーツ活動による力学的負担が急激に増加することが重要な発症要因となる.また,股関節の形態学的要因として,大腿骨頚部の前捻減少~後捻,骨端線の後方傾斜,寛骨臼の前方~外側被覆が大きいなどの形状がリスクとなるという報告がある.

【頻度と発症年齢】

 わが国での発生頻度は欧米と比較して少ないとされてきたが,2002年の報告では年間10万人当たり男子2.22人,女子0.76人であり,1976年の統計と比較すると男子は約5倍,女子は約10倍に増加しており注意が必要である.発症年齢の平均は男子が11歳10か月,女子は11歳5か月であり,両側に発生したものは14%であったと報告されている.両側例における発症時期の間隔はほとんどの症例で24か月以内であったことから,発症後2年間は反対側の発症に注意を払う必要がある.

【病型分類と経過,予後】

 通常,緩徐に発症し,骨端が少しずつ後方へすべるようにゆっくりと変形が進行する.骨端と骨幹端の間の安定性が比較的保たれているうちは跛行を呈しつつも歩行は可能であり,このような状態を臨床的に安定型とよぶ.しかし,ひとたび,骨端が骨幹端から分離して急激な転位を生じると,患児は激痛とともにたとえ杖を使用

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